京都精華大学 教育後援会 Kyoto Seika University Parents Association

2016.11.26

  • 活動報告

[懇親事業]「魔鏡」に関する講演会を開催しました

10月29日に2016年度の懇親事業を開催しました。
教育後援会の懇親事業は、会員間の親睦を深めることを目的に、年に1回開催しております。今年は、近年好評をいただいている京都の伝統工芸に関するテーマより、神祗工芸(神社の調度品など)の中の「和鏡」を製作する職人による講演会を開催いたしました。題名は「最後の“鏡師”が伝える伝統と文化」とし、講師は、山本合金製作所五代目で、鏡師の山本晃久さんです。また、聞き手は、本学人文学部の卒業生で、伝統工芸分野での執筆活動などで活躍している工芸ジャーナリストの米原有二さんが務めました。

導入では、米原さんから京都は世界でも屈指の、手仕事を中心とした工芸の街であるというお話があり、街と工芸とが育んできた関わりや、そこに生きる職人たちに思いを馳せました。 そして、「鏡」についてのお話です。現代人の生活とは馴染みの薄くなった「和鏡」に関して、私たちが日常で使うガラス鏡との違いや、銅鏡の歴史、祭祀祭礼の道具としての役割などについての講義を聴きました。教科書の中でしか触れる機会の無かった銅鏡・和鏡の世界にグッと近づいていくようでした。

続いて「初めまして、山本合金製作所の山本晃久です。」と、本編がスタート。山本さんによるご自身のお仕事についてのお話が始まりました。
山本合金製作所の五代目である山本さんは、手作業で青銅鏡を作る日本で唯一の工房の鏡師です。主に、社寺に納めるご神鏡の製作、曇った鏡を磨く「お直し(修理や手入れ)」、博物館に所蔵されている歴史的価値の高い鏡の復元、魔鏡の製作などを手がけておられます。
遷宮(神社がお宮を遷す際に社殿の補修や改修を行うこと)の度に新調されるご神鏡をはじめ、祭礼など、様々な用途で用いられる鏡に、全国の神社に出向く中で接してきたこと、潮風の当たる神社では鏡の曇りが早く、磨き直しの仕事の後に、綺麗に保つ保全の方法を相談されたことなど、豊富な写真資料にあわせて、興味深いお話が展開しました。
また、お直しの仕事の経験談では、「昔の鏡は素材が悪く、磨くと逆にキズが目立ってしまうことがある。手直しとして受けるリスクも高く、受注に抵抗を感じていた頃もあったが、“鏡師”として名乗る以上はそこからは逃げられないという思いで続けた結果、技術も向上し、今では自信を持って受けられるようになった」と、日々ご自身の知識を深め、技術を高め、鏡師としての覚悟を持ってお仕事されている様子が伝わりました。


「鏡作りは、その技術が途絶えかけた不幸な歴史があります。」と、米原さん。洋鏡の普及による近代化の流れの中で技術の断絶があったのだそうです。加えて山本さんから、3代目のお祖父様が過去の技術を解明し、苦心して、鏡作りを復活させたお話がありました。その中に「魔鏡」の技術も含まれるそうです。魔鏡とは、鏡面に光を当てると反射光に像や模様が陰影となって現れる金属鏡のことを指しますが、製作には特殊で高度な技術を要します。魔鏡は隠れキリシタン弾圧を背景に生まれたので、歴史はそんなに古くはないのですが、現代に至るまでに断絶の危機を乗り越えてきたことがわかりました。
さらに山本さんは、情熱を込めて語りました。「3代目の祖父は鏡作りの本質を追求し、魔鏡の技術を復活させて、銅鏡のことを世間に広める役割を担った。4代目の父は仏具の仕事を積極的に取り、職人を増やして工房の基盤を作ってくれた。私は、取材などを積極的に受けてたくさんの人に知ってもらいながら、職人の環境を改善し、次の世代が仕事をやりやすくして、技を継承していきたい。それが5代目の役割だと思っている。」。

そして、安倍首相がローマ法王に進呈した魔鏡を製作した経験など具体的なエピソードを聴いた後は待望の、魔鏡の照射実演が行われました。壁面に不思議な像が浮かび上がると、客席からは一斉に驚きの声が上がり、絶好のシャッターチャンスとなりました。また、そのタイミングでプレゼントとして、小さな魔鏡の付いたしおりが配られ、この会一番の盛り上がりとなりました。

 

後半は、今を生きる職人の一人として、山本さんが日頃考えていること、最近関わっている活動のお話をもとに、手仕事としての工芸をめぐる現状について米原さんとのクロストークが展開されました。

「後継者がいない、工芸品が売れない」という難しい状況がある中でも、30代40代の職人たちは活発に交流し、デザイナーとの協業によるものづくりなどが生まれているそうです。山本さんからは、京都のデザイン事務所「Sfera(スフェラ)」との取り組みが紹介されました。生活用品にはなりにくい鏡や仏具の技術を現代にどう見せるかという問いに対し、アートとプロダクトの間としてのオブジェ制作に取り組みミラノサローネ(世界最大規模のインテリアデザインの見本市)に出品したそうです。

「どんな仕事をするときでも“本質”を見ていきたいと思ってるんです。」と山本さん。
「デザイナーとコラボレーションして、かっこいいものを作って、海外の人に見てもらって、某有名ブランドの方が工房見学に来て、と繋がっていく状況はうれしいです。でも、挑戦しなければここまでの広がりは予想がつかなかった。それにただ驚いているのではなく、この取り組みの本質は何なのか、ちゃんと見つけていかないといけないと思う。デザイナーとの仕事は自分ではたどり着けない視点に立つことができるんです。」と、試行錯誤しながらも積極的に挑戦を続ける山本さん自身のものづくりの姿勢を見ることができました。また、トークの結びに発された「祖父のように鏡作りの本質を追求していきたい」という言葉には、代々受け継がれる思いを感じました。


神具や仏具といった京都特有の工芸品は、神社やお寺で実際に多く目にする機会はあっても、なかなか一つ一つを気にとめることはありません。短い時間ではありましたが、現代の鏡師として生きる山本さんの率直な語りから、世にも稀な魔鏡の技術が今も息づいていること、「工芸」の継承が苦境にあっても、未来を見ていること、そこには大きな可能性があることが感じられました。

ご参加くださったみなさん、ありがとうございました。来年度の懇親事業もみなさんの興味・関心に応えるテーマで企画したいと考えております。ご意見・ご要望がございましたら事務局までお寄せください。